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【対談:海外で働く 番外編】2024年、イギリスとドイツのワーキングホリデー最新動向

​​歴史的な円安によって海外留学や海外旅行のハードルが上がる中、改めて「ワーキングホリデー」という制度に注目が集まった2024年。その締めくくりとして、JAC Recruitmentのコンサルタントが、イギリスとドイツのワーキングホリデーの最新動向についてお話しします。いつか海外で働いてみたい、一度は海外で生活してみたいと考えている皆さん、ワーキングホリデー制度を活用して、はじめの一歩を踏み出してみませんか?

- 2024年、ワーホリ制度はどう変わった?

鈴木(JAC Germany):今回のゲストは、JAC Recruitment UKのコンサルタント山内さんと、現在イギリスのワーキングホリデービザでコンサルタントとして働いている瀬戸さんのお二人です。よろしくお願いします。

2021年末にも一度、イギリスとドイツのワーキングホリデーをテーマに対談しましたが、そこから3年が経過し、ずいぶん状況も変わってきていますよね。(過去記事:【対談:海外で働く番外編】2022年、イギリスとドイツのワーキングホリデー最新動向

特に、イギリスのワーキングホリデービザ(正式名称Youth Mobility Scheme、略称YMS)について、大きな変更があったと聞きました。

山内(JAC UK):はい。一番大きな変更点はYMSビザの発給数の上限についてで、これまで年間1500人だった日本国籍者に対する募集枠が6000人に増加しました。これは2024年1月末から有効になった新ルールです。それに付随して、抽選も廃止され、申請した人は先着順でYMSビザを取得できるようになりました。

また、イギリスには、IHS(Immigration Health Surcharge)というEU以外の国籍者がイギリスの医療(NHS)を受けるための移民健康保険料があり、この保険料が2024年2月に年間470ポンドから776ポンドに値上がりしました。YMSの場合は、2年分(1552ポンド)をビザの申請時に支払うことになります。

【イギリスとドイツ ワーキングホリデービザ制度の比較】

UK

Germany

名称

Youth Mobility Scheme (YMS)

Working Holiday Visa

対象年齢

18歳以上、30歳以下
※ビザ申請時に30歳以下であれば、渡航時は31歳でも可能

発給数

6000人

制限なし

申請場所

在住国での申請
※UK国内は不可

世界各国のドイツ大使館・総領事館
(事前問合せ推奨)

申請費用

298
(+IHS健康保険料2年£1552

無料
(旅行者用医療保険加入証明要)

滞在期間

最長2年間

3ヶ月以上1年以内

就労期間

制限なし

制限なし

資金証明

最低£2,530

最低€2,000

※上記は全て2024.12月時点の情報です。最新情報は各大使館のWebsite等でご確認ください。

鈴木(JAC Germany):YMSの新ルールがスタートしてから一定の時間が経過していますが、何か変化を実感していますか?

山内(JAC UK):上限が6000人に増えたことでお問い合わせが激増しているかというと、実はそうでもありません。抽選式を採用していた時には、「ちょっと行ってみたい」という人も運試しに応募していて、「当選したから行くことを決めた」という人も少なくなかったように思います。今は「絶対にイギリスに行くぞ」という人だけが応募しているからか、数に大きな変化は見られません。私たちが開催する「YMSの方のためのイギリス就職・新生活オンラインセミナー」で皆さんから受ける質問も、これまでと同じような内容です。 

鈴木(JAC Germany):なるほど。最近は円安の影響もあって、「オーストラリアにワーホリで行ったけど、仕事も見つからないし、家探しも難航、インフレもひどい」といったニュースでワーホリは取り上げられたりもしています。そういった心配は、イギリスにワーホリで来る人にも、当てはまる内容だと思いますか?

山内(JAC UK):少し様子が違うように思います。イギリスに来る人は、ワーホリ2カ国目、または留学経験がある人が多くいます。やはりオーストラリアやカナダに比べて、移住のハードルが高い国という印象が影響しているかもしれません。

鈴木(JAC Germany):しかも、円安によってそのハードルはさらに高くなっているのが現状ということですね。ドイツでは、正確な人数は把握できていないですが、コロナ禍以降はお問い合わせや実際にワーホリでドイツにいらっしゃる方は増えてきている印象です。

ドイツのワーキングホリデービザ制度の変更としては、同じ職場で働ける期間について、最長6か月と制限されていた時期もあったのですが、それは撤廃されました。ただ、ドイツ大使館などからの発信を見ていると、「ワーキングホリデービザの第一目的は、ドイツで休暇を過ごすこと」と、「ホリデー」がメインであることが明記されており、「就労が第一目的なら就労ビザ」と、違いをより強調されるようになっています。

- ワーホリ向け求人案件と求められる語学力

鈴木(JAC Germany):イギリスではワーホリ(YMS)で来る人が働ける求人案件について、何か変化はありますか?

山内(JAC UK):募集枠が増えたことで、企業がYMSの方の採用にもっと意欲的になってくれるのでは、という期待を私たちも持っていたのですが、変化はあまり感じられていません。変わらず、求人の数に対して、圧倒的に候補者が多い状況ですね。

鈴木(JAC Germany):JCA UKで取り扱っている案件で、ワーホリの方にご紹介する仕事にはどのようなものがありますか?

山内(JAC UK):事務などバックオフィスの仕事と営業のポジション。この二つが圧倒的に多いです。それ以外だと、カスタマーサービスもあります。

鈴木(JAC Germany):その時に求められる英語力はどのくらいですか?

山内(JAC UK):基本的に、「ビジネスレベル以上」が求められます。具体的には、仕事をする上で必要なメールや電話の対応が問題なくできるレベルです。営業であれば、英語でネゴシエーションができたり、企画書を書けるレベルが必要になります。今まで海外に一度も住んだことがない人にとっては難しい条件だと思うので、ワーホリでオフィス仕事を得るのは簡単なことではありません。

鈴木(JAC Germany):職歴は、採用に際してどのくらい強みになりますか?

山内(JAC UK):社会人経験がない状態でイギリスに来る方もいますが、そういうケースはやはり難しいですね。経理やHRをやっていた方が前職でやっていたことを活かせる案件に応募した方が内定しやすいです。海外でキャリアチェンジを目指すのは難しいと思います。

鈴木(JAC Germany):そうですね、ドイツも同じような状況です。UKの場合には、特に金融やITの専門性がある方は採用ニーズが多い印象です。

山内(JAC UK):はい。金融やITの会社の場合、ワーホリ終了後に長く働ける就労ビザをサポートする前提で採用するパターンもありました。

ドイツで募集が多い業種や職種は何になりますか? 

鈴木(JAC Germany):UKと同じく、バックオフィスと営業系が多いですね。その中でも、アドミ系のポジションだとドイツ語・英語双方を求められることが多いです。

セールスアシスタントであれば、一部の会社では貿易事務経験+英語力がある場合ドイツ語は尚可条件となる、ということもあります。同様にITやエンジニア等の専門性の高い職種の場合、日本語と英語の2カ国語と、職歴が評価されて採用されることもあります。

- イギリス、ワーホリ後の就労ビザへの切り替え要件が厳格化

鈴木(JAC Germany):JAC Germanyでは、イギリスのYMS後に、ドイツにワーホリでいらした方の就職をサポートさせていただくこともありますが、その後、就労ビザを取得し、ドイツで長く働かれている方も一定数いらっしゃいます。

イギリスでは就労ビザ取得のためには、会社が申請に必要な多額の費用を負担してサポートすると聞きました。イギリスでYMSビザの期限終了後、就労ビザに切り替えるチャンスは相変わらず少ない状況ですか?

山内(JAC UK):はい。2024年4月からは、就労ビザ(Skilled Worker Visa)の要件が大幅に厳しくなりました。年収の水準が2万6200ポンド(約500万円)から、3万8700ポンド(約735万円)に上がり、この条件をクリアしないと、会社は社員に対して就労ビザのサポートをできなくなってしまいました。

年収3万8700ポンドは、YMS向けのアシスタント職の給与水準とはかけ離れている金額なので、もう手の届かない条件になってしまっているという状況です。

ちなみに、ドイツは給与水準がもっと高いですよね?

 鈴木(JAC Germany):そうですね。もちろんユーロとポンドの違いがあるんですけど、最近ではアシスタントのポジションでも、4万ユーロ台(約630万円)ということはあります。但し、日本よりもインフレは進んでいますし、税金や社会保障費は日本より高いです。※1ポンド=190円、1ユーロ=160円換算(2024年12月)

イギリスでのYMS終了後、他国での仕事探しに関してもご相談はありますか?

山内(JAC UK):ヨーロッパの国でもチャンスがあるなら行ってみたいという声は、実はすごく多いです。ただ、ドイツに行く際のハードルになっていると感じるのがドイツ語です。

ドイツ語が話せないことは、ドイツでの就職活動にどういう影響がありますか?

鈴木(JAC Germany):確かに、ドイツではドイツ語もできる方が就職の可能性の幅は広がります。ただ、海外経験のない人と、イギリスで生活しながらオフィスワークの経験もある人とを比較する場合、後者の方が有利になることもあります。日系企業が一番多いデュッセルドルフだけでなく、フランクフルトやミュンヘンにも日系企業が進出していて、日本語スピーカーが必要なポジションが国内に分散しているのもドイツの特徴です。 

JAC UKでは、イギリス以外の国もサポートしていますよね?

山内(JAC UK):私たちはベネルクス三国も担当していて、中でも日本人が一番ワーホリに行く国はオランダです。ただ、1年しかいられないこと、その後のビザ・スポンサーにコストがかかるので、オランダの日系企業での就職はチャンスが限られている状況です。

それ以外の国だと、ドイツほど簡単ではありませんが、イギリスやオランダよりは就労ビザを取りやすい国がアイルランドです。ワーホリから就労ビザへの切り替えの成功例もまれに耳にします。ただ、日系企業の数はかなり少ないです。

- 経験者から見た、ワーホリの魅力

鈴木(JAC Germany):他国のお話を踏まえると、ドイツでのワーホリの魅力はやはり、就労ビザを取得しやすく、長期のお仕事に就きたい人にチャンスがあることですね。

また、第三言語の国での生活を経験できること。これが実は特別な経験だと思います。英語以外の公用語がある国で生活していく上で感じる不便や、母国語と英語以外の3つ目の言語圏で得られる考え方や、多角的な視点を持てることは、仕事も生活も豊かにしてくれる。これも一つの良さだなと実感しています。

今年、イギリスにワーホリで来た瀬戸さんに、改めて、イギリスの魅力について教えてください。

瀬戸(JAC UK):やはり英語圏であることは、大きな魅力の一つです。言語が通じない国より、馴染みのある英語が使える国であるということ。そして、ワーホリ期間が2年間あり、オーストラリアやカナダよりもオフィスワークに就きやすいこと。イギリスでの就業経験は、日本に帰国した後のキャリアにも活かせる可能性があります。

また、格安で色々なヨーロッパの国に旅行できることはもちろん、イギリスに憧れを持っている人は多いです。私も今、通勤の途中にバッキンガム宮殿をみると、「ロンドンに住んでる」ことを実感しますし、やはり魅力のある場所だと思います。

鈴木(JAC Germany):瀬戸さんは、イギリス以外の国も働く候補に入れていましたか?実際にイギリスでの生活が始まってみて、どのような印象ですか?

瀬戸(JAC UK):私は、イギリス以外は考えていませんでした。多くの方が色々な期待やイメージを持って海外に行き、その後、渡航前の期待やイメージとのギャップに挫折したり、海外の現実に苦労するというのはよく聞く話です。私自身はいい意味でも悪い意味でもイギリスに期待をしないで来たので、逆に今を楽しめているように思います。もちろん、先進国なのに電車が止まったり、ストライキも起こる、水の出もなんだか悪いといった驚くことも多いですが、十分暮らしていける環境だと感じます。

鈴木(JAC Germany):電車やストライキは、ドイツも同じような状況ですね。

瀬戸さんは今、イギリスでのお仕事を紹介する立場にもなったわけですが、これからYMSでイギリスに来たいとお考えの皆さんに伝えたいことはありますか? 

瀬戸(JAC UK):何を目的とするのかを明確にしてから来ると、判断の基準が定まると思います。例えば、仕事の内定を複数もらった時に、どれを選ぶのか。観光を楽しむのか、他の目的があるのか、ワーホリ2年間の過ごし方や働き方に対して目的があると、その時々の判断が楽になると思います。

山内(JAC UK):また、JACがサポートするオフィスワーク以外も選択肢として入れて考えると、イギリスでワーホリ中にできる仕事は多くあります。販売員や、ローカル企業の日本語ポジション、今は特にパブやカフェの店員さんなどサービス業も需要があります。目的を持った上で気軽な気持ちで来ていただいても良いのかなとも思います。

決して、無計画に来てほしいということではなく、深く考えすぎたり、「絶対にオフィスワークに就いて働かなきゃいけない」など、自分の期待に縛られすぎないでほしいということです。

やはり海外で働きたいという気持ちがあるなら、ワーホリを利用できるうちに利用したほうがいいと思います。私自身、もしワーホリでイギリスに来ていなければ、ヨーロッパの国を一つも旅行しなかったと思いますし、ここに来て色々なチャンスをもらいました。仕事だけでなく、それ以外にも得られるものがたくさんある。そういう側面も、忘れないでほしいと思います。

鈴木(JAC Germany):よく分かります。私も20代後半で海外に出て、その時はそのまま海外に長く住もうと考えていたわけではありませんでした。ただ海外に出たことで始まるキャリアがあって、それは自分にとってすごく良い経験になっています。あの時、まずは行ってみるという決断をして、本当によかったと思います。ワーホリ希望の皆さんは、色々な不安もあると思いますが、海外挑戦のポジティブな面も見てほしいと思います。

本日はどうもありがとうございました。

ゲスト:
JAC Recruitment UK シニアコンサルタント 山内絵美香

大学卒業後、留学・教育コンサルタントとして主に英国と日本の海外留学を希望する日本人学生のサポートに従事。2021年2月にイギリスにYMSビザにて渡英後、JAC Recruitment UKに入社し、現在までIT・金融以外の幅広い業界の他、オランダを含む欧州を担当している。

JAC Recruitment UK コンサルタント 瀬戸捺稀

アメリカの大学卒業後、大手小売メーカーに入社し、店舗マネジメントとして人材育成や売上・在庫の管理を担当。その後、インハウスの採用業務に従事し、採用ブランディングや面接、内定から入社までのサポートに携わる。2024年4月にイギリスにYMSビザにて渡英、現在、JAC Recruitment UKに所属。

ホスト:
JAC Recruitment Germany プリンシパルコンサルタント 鈴木彩子

大学卒業後、JAC Recruitment Japanで約4年間の経験を積み、マルタ共和国へ英語留学。当地で現地採用され、2011年からヨーロッパでのキャリアをスタート。ドイツへは2017年に渡り、現在、JAC Recruitment Germany フランクフルト支店に所属。

構成・文:高橋萌